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ランチェスター理論はマーケティング的に不適切じゃないのか?

最終更新日:2015/6/18

ランチェスター経営学というと、多くの中小企業経営者が耳にしたことのある言葉だと思います。そして、その多くの経営者が、実践的で、現実味がある理論だと評価しているようです。

今回の記事は、特にランチェスター経営学そのものを批判するものではなく、単にランチェスター理論とランチェスター経営学が全くの別ものという指摘をするだけのものです。

そもそもランチェスターとは何なのか

Wikipediaを見れば分かるとおり、ランチェスターというのは人の名前です。1900年代にイギリスでメカニックをやっていた人で、航空機に大きな魅力を感じていた人でした。ランチェスターの専門はエンジンですから、航空機に大きな可能性を見出したのは職業上の必然だったのかもしれません。

そんなランチェスターが著したのが、”Aircraft in warfare: The dawn of the fourth arm.”(戦闘における航空機 – 4番目の兵器の夜明け)です。原文はインターネットアーカイブから閲覧できます。

ここでランチェスターが述べているのは、一重に航空機が戦争でいかに役立つかということです。著書は1914年で、当時は軍艦と戦車がメインでしたから、発想としては非常に画期的でした。ちなみに、航空機を主力にした戦闘は1941年の真珠湾攻撃とマレー沖海戦ですから、ランチェスターの慧眼がいかに先を見ていたのかが窺えます。

ここで、ランチェスターはひとつの戦闘を単純化した式を作ります。これがいわゆるランチェスターの法則です。

ランチェスターは、地形を考慮せず、相手の情報がお互いに分からない状態での銃撃戦をモデルにしました。こうなると、数が多いほうが有利です。本文のCHAPTER Vに、時間の経過による減少具合など、エンジニアらしい綿密な計算シミュレーションが記されています。また、この式の裏づけにはトラファルガー海戦の事例も挙げられており、モデルとしての有効性も説明されています。

この後、本文は航空機を戦闘に取り入れた場合の効果を、これでもかというくらい力説しています。まさに航空機愛のなせるわざです。

この本を著したあと、ランチェスターは自身の作った技術研究所で仕事をして、ハイファイラジオ事業に手を出して失敗して、そのまま生涯を終えました。

ここまで見るとわかるとおり、経営的な話は一切ありません。彼が著したただ1冊の本は、航空機の技術本です。

なんでランチェスターが経営学?

実は、戦略の教本が経営学に生かされている事例はランチェスターに限りません。孫子の兵法やアレキサンダー大王の戦略など、多くの著名な戦略が経営学に取り入れられてきました。ランチェスターも、おそらくそうしたひとつだろうと予測されますが、何といっても分かりやすいということが、これだけの認知に広がったのではないかと思われます。

ランチェスター経営学の基礎は、地域戦略だといわれています。簡単に言うと、10対5では負けるから、10を3つくらいに分割して、3対5で戦うべき、というものです。これがニッチ戦略というものですが、そもそもランチェスターの著書にはそんなことは一切書いていません。

ランチェスターが書いたのは、あくまでも航空機の有効性ですから、10対5で負ける戦争でも、航空機を導入すれば勝てると主張しているのです。

したがって、ランチェスター経営学というのは、単にランチェスターの第一法則を都合よく解釈した理論と位置づけるしかないということです。その理論が正しいかどうかは、実践をしている経営者が一番分かっているでしょうから、ここではその正当性に疑問を挟むようなことはしません。

印象としては、スウェーデン国立銀行賞をノーベル経済学賞と言っているようなものなんだろうと思いますが、正直に言ってほとんど関連性のないランチェスターの名前をあえて使わなくても、理論として確率しているなら問題ないんじゃないかと思う次第です。

ランチェスターを経営に結びつけるリスク

とはいえ、個人的にはランチェスター経営学に多くの疑問を持っていることも事実なので、いくつか指摘しておきます。

まず、ランチェスター理論は、戦略でなく戦闘レベルでのシミュレーションということ。表題のwarfareは、大まかに戦争や闘争といった意味がありますが、おおむね個別の戦闘のことを指します。戦闘の目的は相手の駆逐ですから、経営目的とそもそも合致しないという欠点があります。経営の目的はライバル会社の駆逐ではなく、一定のシェアを確保することです。

現実の話をすると、ライバルが完全に駆逐された状態で、一社だけで独占販売ができる状況が果たして存在するでしょうか。顧客は選択ができないものを嫌います。したがって、競争相手がいないことには商売が成り立たない可能性すらあります。相手を駆逐してしまっては、市場の拡大も見込めず、単に衰退してしまうだけです。これが戦闘と戦略の大きな違いです。

もうひとつは、ランチェスターの法則は、武器性能の問題を主に取り上げているということです。簡単に言うと、武器の性能に大きな違いがあれば、数に差があっても勝てるというものです。これを大企業と中小企業の戦略に置き換えてみると、中小企業のほうが経営資源は圧倒的に不利ですから、商品の性能に大きな違いを作ればいいということになります。

はっきり言って、それを中小企業に要求するというのはどうでしょうか。良い商品には膨大な開発費が必要になりますし、何より多くの経営資源を長期的に投入する体力がないと、到底できるものではありません。

ランチェスター経営学はこの2点の致命的な欠陥をぼかしていますが、それこそがランチェスターの理論とランチェスター経営学がまったく別ものとなっている原因だといえます。

この記事は、ランチェスター経営をダメだと喝破するものではありませんが、まずは決算書の読み方や経営計画の立て方など、基礎的な経営理論を習得する方が先だろうと思います。

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